税理士の伴 洋太郎(ばん ようたろう)@ban_tax240です。
うちは相続税対策で子供たちに毎年110万円あげてるから、俺が死ぬ頃にはほとんど残ってないぜ!ガハハ!!!
ガハハ!!!って笑う人は見たことないですが、子供や孫に毎年贈与をしている方はよくお見受けします。
でもそれ、ほんとに相続税対策になってますか?っていうお話。
生前贈与で相続税対策〜♪って、それ大丈夫?
相続税とは、亡くなった時点である程度の財産が残っている場合にかかる税金です。
ある程度ってどんくらい?っていうことなんですが、これがまたケースバイケースなんですよ。
参考までに、平成28年中にお亡くなりになった方のうち相続税がかかったのは8.1%。
ご近所さんの10人に1人もいないというわけですから、少ないと言えば少ない。
冒頭で例に出した毎年お金を贈与するという対策は、死ぬまでに自分の財産を減らして、相続の税額を減らそうという目論見で行われるものです。
ちなみに110万円という金額は、それを超える金額で贈与すると贈与税という税金が別途発生してしまうので、これを防ぐ意図があります。
ところでこれ、税務調査で
そんなの関係ねえ!
とばかりに、節税効果なんてなかったというオチがつくことがよくあるんです。その典型例が次の2つです。
- 3年以内贈与加算
- 名義財産
この記事ではそれぞれについてなぜ節税効果がなくなってしまうのかまた、また節税効果を維持するにはどうしたら良いかをご案内します。
3年以内贈与加算
節税効果がなくなる理屈
あんなに元気(な霊幻道士)だったお爺ちゃんにも、お別れのときが来てしまいました。
でも大丈夫!お爺ちゃんは相続対策で毎年孫たちにお金を贈与していたのです。
亡くなったときには手元にちょこっとしか財産が無かったんだってさ!よかったよかった。
とはならないのが相続税の世界です。
相続税法では、亡くなる以前3年間の贈与は、相続のときに足し戻されてしまうのです。
亡くなる直前に急いで子どもたちにお金を渡して相続税を逃れよう!とするのを防ぐためにある制度ですが…。
これは痛い。これはキツイ。
なんとか回避する方法はないか?
条件付きですが、あるんです。
3年内の贈与でも足し戻されないやつ
住宅取得資金として贈与する
直系尊属から住宅取得等資金の贈与を受けた場合の非課税という制度です。
子供や孫が家を建てる(買う)ときの資金援助でお金をあげた。
こんな場合には、足し戻しの対象とはなりません。
教育資金として贈与する
祖父母などから教育資金の一括贈与を受けた場合の贈与税の非課税制度というものです。
子供や孫に、将来の教育資金としていっぺんにお金をあげた。
こんな場合にも、足し戻しの対象となりません。
結婚・子育て資金として贈与する
直系尊属から結婚・子育て資金の一括贈与を受けた場合の非課税という制度です。
子供や孫に、将来の結婚・子育て関連費用としていっぺんにお金をあげた。
これも、足し戻しの対象となりません。
生活費や教育費をその都度贈与する
扶養義務者(父母や祖父母)から「生活費」又は「教育費」 の贈与を受けた場合の取扱いです。
教育資金贈与や結婚・子育て贈与は、将来のために、そしていっぺんにお金をあげた場合の制度です。
こちらは必要な都度、必要な金額を生活費や教育費としてあげたお金は、足し戻しの対象にしないよ!ということ。
長年つれそった配偶者に、住む家や土地(またはその購入資金)を贈与する
夫婦の間で居住用の不動産を贈与したときの配偶者控除という制度です。
結婚生活が20年以上続いている夫婦間での贈与に関する特例です。
ふつうに相続のときに渡したほうがお得になるケースが多いですけどね。
どうしても生前に妻や夫に自宅をあげたい(相続税対策とか関係なしに)という事情がある場合に役立つ制度です。
相続のときに何もあげない
3年内贈与の対象になるのは、贈与を受けた人が相続でも財産を貰う場合に適用されるルールです。
以下は国税庁のホームページより抜粋
孫は通常、相続で財産を貰う権利がありませんので、贈与だけでしたら足し戻しの対象にはなりません。
名義財産
名義だけが子供や孫のものになっている財産のことです。名義預金とか名義株がその典型ですね。
これらは、贈与そのものが無かったことにされてしまいます。
以下、具体例をあげて説明します。
節税効果が無くなる理屈
相続税対策で孫名義の預金口座へ毎年100万円を移していたお爺ちゃん。
通帳や印鑑はお爺ちゃんが管理しており、孫たちはその事情を一切知りませんでした。
そんなお爺ちゃんが亡くなって2年後、相続税の税務調査をしたいと訪れた税務職員からこんな指摘を受けます。
預金の名義が孫であるのは間違いありません。したがって、お爺ちゃんのものではなく孫のものなんです。
でも実質的にはおじいちゃんのものだと。「お爺ちゃんが複数持っている預金口座の間でお金が動いただけ」という見方がされてしまうのです。
今回の事例名義では子・孫なのに、亡くなった人の持ち物と認定されてしまいました。その理由は、次の2つの要件を満たしていなかったからです。
- 「あげた」という意思と、「もらった」という意思が一致しない
- もらった側が自由に使えない
逆にこの2つさえ満たせば、予期せぬ相続税を払う必要はないということになります。では、どうやって満たせばよいのか。
「あげた」という意思と、「もらった」という意思を明確にすること
なぜこれが必要か、民法という法律にその理由があります。
民法では、贈与は契約の一種とされます。
そしてその契約は、あげる人の「あげる!」という意思と、貰う人の「もらう!」という意思が揃わないと成立しないとされているのです
そうでないと、いらないものを押し付けられたり、あげたくないものを奪われてしまったり、といった事になりかねませんよね。
ちなみに「あげる」と「もらう」は、なにも書面で明らかにする必要はなくて、その意思を表示すれば契約としては成立です。よく「口約束も契約」といいますが、それです。
税務調査の場面では、この「贈与契約」が本当にあったかどうかで揉めることが多々あります。
つまり、「あげる!」と「もらう!」ってほんとに意思表示したの?ってことです。
事例ではお爺ちゃんから孫でしたが、逆のパターンもありえます。
いやな話ですが、認知症により意思表示が正しくできない高齢者の財産を、子や孫が勝手に持っていくといった感じ。
ということならば、「ほんとにお互い意思表示したんです!!!」と証明できればこっちのもんなわけです。
贈与契約書を作成する
贈与は書面によらなくても成立するとは申しましたが、証明するという観点では絶対に契約書があったほうがいいです。
さらに、契約書にはあげる側ともらう側が直筆で住所・氏名をサインをしておきましょう。プリントした住所氏名は誰でも作れてしまい、証明力が弱いためです。
とは言え幼い孫なんかだと、自分で住所氏名が書けないという問題がありえます。そもそも0歳児なんかだと、意思表示自体できないですよね。
その場合には、親権者が代理人として直筆すればオッケーです。もらうよ!の意思表示を親が代理することとなります。
ダメ押しで実印も押しておきましょう。
契約書に公証人の確定日付印をもらう
税務調査の連絡があってから、慌てて何年も前の日付で贈与契約書を作る。
あってはならないことですが、そんなことを助言する税理士も世の中にはいるようです。いわゆるバックデートってやつですね。
そんな「こすい」ことしてないよ!と証明するため、作った契約書へは公証人の確定日付印をもらいましょう。
確定日付印とは、「その契約書がその日付に存在していて、署名も押印もありました!」ということを証明した印(しるし)です。
公証役場というところにいる、公証人とよばれる方が押してくれます。
西尾市にもあります!
もらった側が、自由に使うことが可能な状態であること
さて、贈与という契約があったことを証明できたとしても安心できません。それだけではまだ「形式」をガチガチに固めただけだからです。
「実質」的にも贈与をしたと主張するためには、もらった側がもらったものを自由に使えなければなりません。
もらったけど使わせてもらえない、それはもらって無いのと同じであると見られてしまいます。
通帳と銀行印を、もらった側で管理する
孫名義の預金通帳が、お爺ちゃんの金庫の中で保管されていた。こういう場合は、贈与はなかったと見られかねません。
孫名義の口座をつくるだけでなく、それを実際に孫に管理させましょう。もらった側が未成年者の場合、代理人である親が管理してもオッケーです。
こうしてしまえば、少なくともあげた側が手出しできない状況をつくれます。間違いなくあげた、と主張するための材料になりますね。
たまにもらった側の都合で使う
あげたお金が手付かず、口座の中で眠りっぱなし。
こんな状況であると、自由に使わせてもらえなかったんだと疑われる余地が残ってしまいます。
そこで、たまにはもらった側の都合で、もらったお金を使いましょう。学用品を買うとか、友人との旅行代金として使うとか、そんなかんじです。
無駄遣いを心配するのでしたら、そこは躾でカバーするしかありません。
上記のとおり、「無駄遣いさせたくないから、コチラで管理する。」では、贈与がなかったものとされてしまいますからね。
まとめ
生前贈与が否認される2大パターンをご紹介しました。
相続税の調査は、申告書を税務署へ提出してから1〜2年くらいの間に来ることが多いです。忘れたころにやってきて、その生前贈与は無効です!って言われると面食らっちゃいます。
その頃にはとっくに、もらったお金は使い果たしてたりしますからね。追加で税金払えといわれても、無い袖は振れないなんてことも。
相続対策としての贈与は、よくよくお考えになって実行してください。
この記事を書いたひと
- BANZAI税理士事務所 代表税理士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。1982年6月21日生まれ。個人事業主、フリーランス、小規模法人の税務が得意で、一般の方向けにやさしい解説記事を書けるのが強み。詳しいプロフィールはこちら。
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