年末調整や確定申告の説明で「生計を一にする」って出てくるけど、どういう意味?
同居だったら「生計を一にする」ってことだよね?
そうお考えの方へ向けた記事です。
当記事では『生計を一にする(読み方は「せいけいをいつにする」です)』とはどういうことか、その判断基準を示して解説しています。
読んでいただくと、次のようなことがわかりますよ。
- どんな状況のこと?
1つの家計で複数の人が共に生活している状況をいいます - 何を基準に判断するの?
具体的な判断基準を6つ紹介します - 同居と別居で違いはあるの?
同居は基本的に「生計を一にする」に該当し、別居はその逆ですが、例外もあります。 - 実際の判断事例ってある?
最高裁まで争われた判例をご紹介します
「生計を一にする」とは、どんな状態か
「生計を一にする」とは、ひとつの家計で複数の人が共に生活している間柄をいいます。
所得税法56条にいう生計を一にするとは、同一の生活単位に属し、相助けて共同の生活を営み、ないしは日常生活の糧を共通にしていることと解される。
東京高裁平成13年5月16日判決
税金を負担する能力(「担税力」といいます)を個人単位ではなく「同じ家計の中で生活する人達」単位で考慮するために設けられている考え方です。
税金の優遇措置のなかには、「生計を一にする」ことが条件となっているものがたくさん、ほんっとーにたくさんあるのです。
▼寡婦控除の例
「生計を一にする」の判断要素
生計を一にするかどうかの判断は、経済的観点、物理的観点、形式的観点を複合的に考慮して判断します。
法律に具体的な要件が定められておらず、ケース・バイ・ケースで判断せざるを得ないためです。
具体的には、次のような観点で「生計の独立性」の高い・低いを評価して、判断されます。
- 収入や生活費の状況
- 水道光熱費や通信費の支払状況
- 家族間での家賃の支払状況
- 建物の構造
- 不動産登記の状況
- 住民票や社会保険における世帯の状況
収入や生活費の状況
- それぞれに独立した収入があり、その収入でそれぞれ独自に生活費を負担しているようなとき
- 一方の親族が他方の親族の生活費を負担しているようなとき
それぞれに独立した収入があり、その収入でそれぞれ独自に生活費を負担しているようなときには、独立性が高く「生計を別にする」と判断されやすいです。
逆に、一方の親族が他方の親族の生活費を負担しているような状況では、独立性が低く「生計を一にする」と判断する要素となります。
水道光熱費や通信費の支払状況
- 同居している親族それぞれの居住スペースごとにメーターや回線が別れている
- もしくは、利用量に応じて実費精算されている
- メーターや回線が共通で、実費精算も行われていない
同居している親族それぞれの居住スペースごとにメーターや回線が別れている場合や、利用量に応じて実費精算されている場合には、独立性が高く、「生計を別にする」とされます。
一方で、メーターや回線が共通で、実費精算も行われていないときは、独立性が低く「生計を一にする」と判断される可能性が高まります。
家族間での家賃支払い状況
- 同居している親族が、その家の所有者である親族へ家賃を支払っている
- 家族間での家賃のやりとりがない
同居している親族が、その家の所有者である家族へ家賃を支払っている場合には、独立性が高く、「生計を別にする」と評価されます。
かたや家族間での家賃のやりとりがない場合には、独立性が低く、「生計を別にする」と判断されやすいです。
建物の構造
- 玄関や台所、風呂場のような主要な設備が別々にある
- 建物内で世帯間の行き来ができない
- 玄関、台所、風呂などを共有している
- 建物内でそれぞれの居住スペースを自由に行き来できる
二世帯住宅のように、居住スペースの構造が独立している場合には、やはり独立性が高く、「生計を別にする」といえます。玄関や台所、風呂場のような主要な設備が別で、建物内で世帯間の行き来ができないような状態がその例です。
反面、同居している親族が玄関、台所、風呂などを共有している場合や、建物内でそれぞれの居住スペースを自由に行き来できる場合には、独立性が低く、「生計を一にする」ものとされる傾向にあります。
不動産登記の状況
- 不動産の持ち分が居住スペースごとに区分所有されている
- 同居している親族のどちらかのみの所有となっている
親世帯が1階で子世帯が2階など、同居であるものの不動産の持ち分が居住スペースごとに区分所有とされている場合には、独立性が高く、「生計を別にする」と判断される傾向にあります。
その逆で、同居している親族のどちらかのみの所有となっている場合などは、独立性が低く、「生計を別にする」と判断する要素のひとつとなります。
住民票や社会保険における世帯の状況
- 住民票や社会保険制度上の世帯が別
- 住民票や社会保険制度上の世帯が同じ
住民票や社会保険制度上の世帯が別であれば、独立性が高く、「生計を別にする」という判断を補強します。
一方で、住民票や社会保険制度上でも世帯が同じであれば、独立性が低く、「生計を一にする」と判断される可能性が高まります。
同居と別居で違いはあるか
上記『「生計を一にする」の判断要素』のなかに無かったように、同居と別居の違いそのものは決定的な判断要素ではありません。
それでも、同居の場合は「生計を一にする」とされる傾向が強く、別居の場合には「生計を別にする」と判断されやすいことは間違いないです。
「ひとつ屋根の下」という物質的な繋がりの有無が、客観的に明らかですからね。
- 同居の場合
基本的に、生計を一にするものと判断されます。 - 別居の場合
基本的に、生計を一にしないものと判断されます。
同居の場合は、基本的に生計を一にするものとされる
同居している場合には、明らかに互いに独立した生活を営んでいると言えない限り、生計を一にするものとされます。
国税庁の公式見解でそのように示されており、最高裁もこれを支持しているためです。
親族が納税者と同一の家屋に起居している場合、通常は日常生活の糧を共通にしているものと考えられることから、両者間で日常の生活費における金銭面の区別が不明確である場合は、事実上の推定が働くことを注意的に明らかにしたものと解することができる。
最高裁平成10年11月27日判決
とはいえ、同居であっても生計を一に「しない」と判断されることもあります。
「明らかに独立した生活をしている」といえるだけの事実関係が揃っている事例もあるためです。
その判断要素は上記で解説したとおりですが、おおむね次のような状況であれば「同居だけど独立している」といえるでしょう。
- 互いの生活費を各々負担している。
- 水道光熱費のメーターや通信回線が別々。
もしくは使用量に応じて実費精算している。 - 住民票や国民健康保険でも世帯が別になっている
- 土地建物の所有者に家賃を払っている。
- 建物は同じだが、玄関、台所、風呂場などは別れている。
- 世帯ごとに不動産登記を共有持分で分けている。
別居でも、生計を一にするものとされる場合もある
別居しているもの同士は、基本的に生計を別にするものと考えられます。
寝食を共にしておらず、それぞれ独立した生活をおくっているように見えますからね。他人の目からは。
ただし、本人に十分な収入が無く、親族からの資金援助がなければ生活を維持できないような状況となると、話が変わります。
このような場合には、別居する親族同士がひとつの財布のもと生活しているといえるためです。
たとえば、つぎのような状況であれば、別居していても「生計を一にする」と判断されます。
- 仕事、学校、病気療養等の都合で離れて暮らしている。
- 仕事や学校が休みの際には、一緒にすごしている。
- 生活費や学費、療養費の仕送りがされている。
- 仕送りを受ける側に十分な収入が無い。
国税庁の公式見解でも、そのように言われています。
(1) 勤務、修学、療養等の都合上他の親族と日常の起居を共にしていない親族がいる場合であっても、次に掲げる場合に該当するときは、これらの親族は生計を一にするものとする。
イ 当該他の親族と日常の起居を共にしていない親族が、勤務、修学等の余暇には当該他の親族のもとで起居を共にすることを常例としている場合
ロ これらの親族間において、常に生活費、学資金、療養費等の送金が行われている場合
最高裁で争われた事例
参考までに、同居している義親子について、生計を一にするかどうかが最高裁まで争われた事例を紹介します。(最高裁平成10年11月27日判決)
つぎのような理由から
と判示され、「生計を別にしている」という納税者の主張が退けられました。
- 玄関、台所、風呂などを共有している
- 互いの居住スペースを自由に行き来していた
- 敷地の所有者(義父)に地代を支払っていない
- 水道光熱費のメーターは共有、固定電話も一つだが、使用量に応じた実費精算はされていない
- 固定資産税の使用面積に応じた精算もされていない
この事例をみるに、同居である場合には、よほどの事情が無い限り、生計を一にするものとして取り扱われることが伺われます。
まとめ
「生計を一にする」について、解説しました。
- どんな状況のこと?
ひとつの家計で複数の人が共に生活している状況をいいます - 何を基準に判断したらいいの?
具体的な判断基準を6つご紹介します。 - 同居と別居とで違いはあるの?
同居の場合は基本的に「生計を一にしている」とされ、別居の場合はその逆ですが、例外はあります。 - 実際の事例はあるの?
最高裁まであらそわれた事例を紹介します。
所得税だけじゃなく、相続税や法人税でもメチャ重要な論点ですので、税金計算に関わる際にはしっかりとおさえておきましょう。
この記事を書いたひと
- BANZAI税理士事務所 代表税理士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。1982年6月21日生まれ。個人事業主、フリーランス、小規模法人の税務が得意で、一般の方向けにやさしい解説記事を書けるのが強み。詳しいプロフィールはこちら。
最新記事一覧
- 2022.09.02-税理士業のことPythonでPCdesk(WEB版)へのログインを自動化する方法
- 2022.07.27-税理士業のことPythonでe-TAXへのログインを自動化する方法
- 2022.04.18-税理士業のことfreee"マジカチ"meetup!@名古屋#8のレポート
- 2021.07.10-税金、経理のこと【気にしすぎない】勘定科目の間違いで影響があるケースは限られる