愛知県西尾市の税理士 伴 洋太郎(ばん ようたろう)@ban_tax240です。
先日、東海税理士会でおこなわれた研修会を受けてきました。
テーマは「書面添付制度」です。
税理士が申告書に「品質保証書」を添付するこの制度。
税務調査を受ける確率をウンと下げられるなど、お客様にとって大きなメリットがある一方で、対応可能な税理士が少ないのが現状です。
当記事ではそんな書面添付制度についてお伝えします。
内容は以下のとおりです。
- 制度の概要
- お客様にとってのメリット・デメリット
- 対応可能な税理士が少ない理由
- 当事務所での対応状況
書面添付制度とは
申告書に品質保証書をつける制度
書面添付制度とは
- 税の専門家である税理士の立場を尊重する
- 税務署の業務の簡素化、円滑化する
といった目的で、税理士法という法律で税理士に与えられている権利の一つです。
税理士はこの制度にもとづき、申告内容が適正であることの根拠などを記載した書面を税務署へ提出することが出来ます。
税理士が申告書に品質保証書をつける制度と理解するとわかりやすいでしょう。
保証書に記載する内容
保証書には次のような事項を記載します。
- 申告書を作成するために参考にした資料(契約書、請求書、領収書など)
- 会計ソフトへの入力状況(会計事務所が入力、納税者自身が入力など)
- 決算書の重要な項目についての解説(計算根拠、原因、重要なポイントなど)
- 顕著な増減があった項目についての解説(計算根拠、原因、重要なポイントなど)
- 税理士への相談内容とそれに対する助言内容(重要な資産の売却など、特別な相談内容)
- その他総合的な所見(経営者の人となり、納税意識、税理士の関与状況など)
申告書とともにこれらを記載した書面を提出することで、税務署へとアピールするのです。
税務署も保証書の提出を勧奨しています。
彼らも人手不足ですから、税務調査の手間が減るのは望ましいことなんです。
お客様にとってのメリット
申告書に保証書を付けておくことは、お客様に大きなメリットをもたらします。
税務調査が省略されたり、調査期間が短縮されたりする
保証書がついていると、税務調査が省略されたり調査期間が短縮されたりします。
まずは税務調査が行われるまでの流れを図解で確認しましょう。
税務署は提出された申告書の中から対象を選定し、調査を実施します。
通常は事前通知があるのですが、予告なしで調査が行われることもままあります。
つづいて、申告書に保証書がついている場合を見ましょう。
保証書がついてない場合と比べて、次のような違いがあります。
- 調査の事前通知の前に、税務署が税理士から意見聴取する機会が設けられる。
- 意見聴取の結果、調査が省略されることがある。
- 予告なしの飛び込み調査が(よほどのことが無い限り)行われない。
- 調査が行われたとしても、その日数が短くなりやすい。
特にメリットが大きいのが、税務調査の省略です。
効果の高さを、税務調査がおこなわれる割合が高い相続税の申告で確認しましょう。
平成25年分の保証書付き申告のうち、意見聴取がされたものはわずか11.2%しかありませんでした。
そのうち37.9%で、税務調査が省略されました。
単純計算で、保証書付き申告書が税務調査を受ける割合は7%弱(11.2%×(100%−37.9%))ということになります。
平成25年当時、相続税全体の調査割合は20%程度と言われてたことから、その効果の高さが伺えます。
税務署としても、保証書がついている先に税務調査を実施するのは面倒なんです。
意見聴取しなきゃいけないなど、税務署内部の事務手続きが煩雑になりますから。
金融機関の査定にも好印象
申告書の品質保証書は税務署へのアピールとして機能するものですが、他にもアピールできる相手がいます。
それが、金融機関です。
金融機関は、お金を貸す相手が税務署へ提出した申告書類をチェックします。
貸したお金が本当に返ってくるか、信頼のおける企業であるか、見定めているのですね。
その際、保証書がついている申告書とそうでない申告書、どちらがより信頼できるかは言わずもがなでしょう。
申告書の信頼性が高まれば、金融機関の貸し出し姿勢も改善が期待できます。
お客様にとってのデメリット
税理士への積極的な情報開示と信頼関係が必要
書面添付制度に対応している税理士は、お客様に事細かに事実関係を聞いたり、証拠資料の提示をもとめたりします。
品質保証書をつけるために必要不可欠なことなのですが、これを苦痛に感じられるお客様もいないとも限りません。
また作成には税理士としての責任が伴いますので、次のような場合には、保証書をつけることができません。
- 経理が正確に、適時に行われていない。
- 脱税志向がある。節税志向が行き過ぎる。
- 税理士にも隠し事をする。
品質保証書のメリットを受けるためには、税理士への積極的な情報開示と信頼関係が欠かせないのです。
本業をこなしつ実現するには、それなりの手間やコストを要します。
対応可能な税理士が少ない理由
お客様にとって大きなメリットがある書面添付制度ですが、対応している税理士は大変少ないという現状があります。
最も高い相続税の申告書でも、全税理士のうち18%程度しか品質保証書をつけていません。
対応率が低いのには、おもに3つの理由があります。
虚偽記載は懲戒処分の対象だから
書面添付制度は税理士に与えられた権利ですが、権利の裏には責任が伴います。
税理士法という法律では、税理士が作成した品質保証書に虚偽の記載があった場合、作成した税理士を懲戒処分にできるとあるのです。
税理士の多くがこの点を、保証書の作成をしない理由として挙げています。
記載した内容に誤りがあった場合に、自らが処分を受けてしまうことを心配しているのです。
しかし懲戒の対象になるのは、税理士が故意に不正な申告をした場合だけです。
単なる記載誤りや、記載内容が事実と異なることを税理士が知らなかった場合などには、虚偽記載にはあたりません。
お客様から提示された資料や情報に基づいて、その範囲内で知りうる限り適正な処理をしていれば、懲戒処分になどならないのです。
裏を返せば、税理士には高い注意義務と説明責任が伴います。
だからこそ保証書の作成には、お客様との情報共有や信頼関係が必要不可欠となります。
保証に足る申告内容でないから
保証書の作成には高い注意義務と説明責任が伴う、お客様との情報共有や信頼関係が欠かせない、とお話しました。
ですから下記のようなケースでは、保証書を付けようと思っても付けられないのです。
- 経理が正確に、適時に行われていない。
- 脱税志向がある。節税志向が行き過ぎる。
- 税理士にも隠し事をする
と自信をもって言える方がそもそも少ない、という現状があるかもしれませんね。
面倒だから
品質保証書は申告書そのものとは違い、税務署への提出義務がありません。
税理士の権利と判断に基づいて作成されるものなのです。
そのわりに、作成には結構な手間がかかります。
申告書の作成自体それなりの手間がかかるのに、加えて保証書までつくるのは大変な作業なんです。
煩雑な作業が増えて面倒だからと、保証書を作成しない税理士は少なくありません。
特に格安顧問料の税理士事務所では、利益追求のため余計な手間をかけてられませんからね。
とはいえ、ハナから保証書を作ると決めて日々の業務をおこなっていれば、煩雑さはある程度軽減できると思います。
お客様へアドバイスした内容や処理した事項を1年間記録しておき、それを決算時に保証書の雛形にコピペすれば良いわけですので。
ここでも結局、お客様との情報共有や信頼関係が重要になってきます。
当事務所での対応状況
そんな書面添付制度ですが、当事務所では次のように取り組んでおります。
相続税の申告書には、原則的に保証書を付けます
相続税は税務調査が行われる割合がとても高く、保証書添付の効き目が特に現れやすい税金です。
また個別の事案ごとに特殊な事情が多分にあり、適正な申告をするためには深い洞察が必要になります。
洞察の内容をつまびらかにすれば、税務署へも調査の必要が無いと強くアピールできます。
そこで当事務所では、すべての相続税申告書に保証書をお付けいたします。
頻繁に資料提供をお願いしたり、事実関係を伺ったりいたします。
保証書作成のため、何卒ご協力くださいませ。
所得税・法人税の申告書には、条件付きで保証書を付けます
所得税や法人税の申告書を保証するためには、日々の経理処理が適正、適時にされていることが肝要です。
そこで当事務所では、以下の条件を満たしていただけるお客様の申告書には、保証書をお付けいたします。
- 日々の経理・会計ソフトへの入力を、ご自身で行っている。
- 入力内容について、税理士による定期的なチェックを受けている。
- 税理士が求めた資料や情報を開示していただける。
経理処理の方法や必要な資料の整備については、積極的にアドバイスいたします。
まとめ
税理士が申告書に品質保証書をつける制度『書面添付制度』について、お話しました。
これから税理士を探される方、現在税理士と契約中の方におかれましては、対応状況をお尋ねいただけると良いでしょう。
この記事を書いたひと
- BANZAI税理士事務所 代表税理士。1級ファイナンシャル・プランニング技能士。1982年6月21日生まれ。個人事業主、フリーランス、小規模法人の税務が得意で、一般の方向けにやさしい解説記事を書けるのが強み。詳しいプロフィールはこちら。
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